啓示のような出来事

私は、「ノルウエィの森」から村上春樹の作品を読み始め、以来短編長編小説、エッセイの全てを読んでいる熱烈なファンです。「職業としての小説家」というエッセイがあります。その中で何故小説家になったのかというくだりがありました。村上春樹は30歳近くになるまで、小説家になろうと思ったことはないそうです。ある年のある時、神宮球場でヤクルト広島戦を見ていた時に、何の脈絡もなく「僕にも小説が書けるかもしれない」という感覚が彼の両手に空からゆっくりと羽のように落ちてきて、その啓示的な出来事のあとにすぐに紀伊国屋に行き、万年筆と原稿用紙を買ってきて処女作である「風の歌を聴け」を書いたとのこと。

私は木彫りを始めてもうすぐ4年半くらいが経ちますが、どうして木彫りを始めたんですかと聞かれることがよくあります。彫刻はもとより美術的なことに全く縁がなかった私が何の前触れもなく突然木を彫り始めたことは、自分でも不思議でなりません。2010年から2年間福岡に単身赴任をしていた時期があって、海まで30mくらいのところに宿舎があったこともあり、海でのルアーフィッシングにどっぷり嵌った時期がありました。週3~4回のペースで釣りに行ってました(出勤前や帰宅後も行っていたので)。一番の思い出は芥屋海岸の浜から65㎝の鰤を釣り上げたこと。あの時の感触はとても強烈で今も鮮明に残っています。

再び埼玉に戻って海釣りに行くことも出来ずに悶々としていた時に、たまたま手元にあった木材で鰤を彫ってみようと思い立ちました。道具は何もないので息子が小学生の頃使っていた彫刻刀を引っ張り出して彫り始めました。夢中になって彫りあげてみると四角の木材が鰤に変わりました。私の中の何かに触れるものがありました。『これだ・・』という感覚。その日を境に私の生き方が変わりました。誰に教わることもなく自分流でひたすら木を彫り続けています。

今から思うと、あの日鰤を彫った事こそが私には啓示的なことだったのかもしれません。写真はその時に彫った鰤です。

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